メンタルケア
心の病 基礎知識
【統合失調症】
統合失調症
1. 統合失調症とは
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脳の神経系の機能障害
この病気は、遺伝や親の育て方、環境が原因で発病するわけではありません。さまざまな刺激を伝え合う脳の神経系の機能に障害が起きることにより、生じる病気です。神経系の機能障害により、思考・意欲・感情・情報処理などに、さまざまなトラブルが生じます。
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発病に関わるさまざまな要因
生まれつき「ストレスに弱い神経系」を持っている人と、「ストレスに強い神経系」を持っている人がいます。患者さんの受けるストレスが、「神経系の弱さ」の限界を超えたときに、脳内の神経伝達物質の異常が生じることにより、発症すると考えられています。また思春期から30歳頃に発症することが多いと言われています。生涯のうちで変化と成長の著しいこの時期のさまざまな出来事が、発症の引き金になるとも考えられます。
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まれではない病気
決してまれな病気ではありません。
時代、民族、文化に関わらず、およそ100人にひとりの割合で発症すると言われています。わが国では全国で60万人近くの患者さんが治療を受けておられます。
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「特別な病」から「治療可能な脳の病気」へ
かつては「特別な病気」と考えられていましたが、病気や治療に関する研究が進んだ今日、治療可能な「脳の病気」と考えられています。早期に適切な治療を受けることで、多くの患者さんが社会生活に復帰されています。
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症状について
陽性症状と陰性症状があります。
陽性症状 【急性期や再発時に見られる特有の症状】
- 幻覚・幻聴(実際にないものが見えたり、聞こえたりする)
- 被害妄想(悪口を言われている、見張られているなど現実にない事を信じる)
- 思考の混乱(物事を正確に判断、理解できない、まとまりのない会話)
- 感情の不安定さ(強い不安、焦燥感、興奮。攻撃的、衝動的行動に及ぶ場合も。)
- 睡眠障害(夜眠れない)
陰性症状 【回復期から長期に見られる慢性的な症状】
- 感情の鈍麻(周りに無関心、表情や声の感情表現が乏しくなる)
- 意欲の低下(自発性、活動性が下がる)
- 過剰な睡眠
2. 認知機能障害
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注目を集める認知機能障害
これまではこの病気に特有の陽性症状、陰性症状がおもに注目されていましたが、最近では物事のとらえ方や考え方、記憶や問題解決といった面にも障害が起こることがわかってきています。これを認知機能障害といいます。認知機能の問題は、患者さんが家庭や社会での生活にスムーズに復帰できるかどうか、どれだけ本来の力を発揮できるかにも、関わってくると考えられています。
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認知機能とは?
『認知機能』といわれると難しい感じですが、具体的には、まわりで起きている出来事をキャッチし、置かれている状況を理解し、心にとどめて、どう対応するかを考えたり、準備したりする心の働きをいいます。また、経験から学んだり、それを他の場面に生かすことも、この働きに含まれます。
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認知機能障害のあらわれかた
認知機能障害は次のような形であらわれ、日常生活や対人関係に様々な困難をもたらします。
- 不要な刺激が気になって、考えがまとまらず、混乱しやすくなります
- 複雑な状況や変化に弱く、ついていくのが大変です
- ひとつのことに注意を集中することが大変です
- 一度に憶えられる量が限られています
- 以前の経験を、今に生かすことが難しくなります
- 指示された言葉を、忘れやすくなります
- 同時に2つ以上のことをこなすのが苦手です
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認知機能障害をふまえた対応
- 指示は、簡潔に、具体的に、わかりやすく伝えることが大事です。
- 一度に伝える情報は少なめにして、シンプルに、ポイントをしぼります。
- 言葉だけで伝えるよりは、メモ、イラストや図など、具体的で分かりやすい手がかりを活用します。
- ストレスや焦り、緊張にも弱いので、本人のペースで、ゆっくり取り組めるように配慮します。
うまくいかない経験が続くと、それが記憶に残り、自信や意欲をなくしてしまいます。
患者さんが『うまく出来た喜び』を体験できるような機会を設けてあげることも必要です。
3. 回復の流れ
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回復のスピードには個人差が
- 前駆期~急性期~消耗期・回復期~慢性期と推移していきます。
- 病気の経過は人によってさまざまで、良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら徐々に回復していきます。
- 数ヶ月~数年という長い目でゆっくり焦らずに見守っていくことが大切です。
- きちんと治療を続けていれば、再発を繰り返す頻度は少なくなります。
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回復の基本的な流れ
1.前駆期
発症前には何らかの兆候がみられます。
- 睡眠障害(眠れない、眠りが浅い)
- イライラ感や怒りっぽさなど、感情の変化
- 抑うつ感や対人恐怖など、神経症に似た症状
- 身体的な不調の訴え(倦怠感、頭痛など)
- 身だしなみや生活習慣など行動面の変化
2.急性期
幻聴、妄想、思考の混乱、興奮などの激しい症状がみられます。本人に病識がないのが特徴です。
- 不安・緊張感
- 被害妄想
- 興奮状態
- 幻聴
- 奇異な言動
- 思考障害
薬物療法と静かな空間による心身両面の集中的なケアが治療のポイントです。
3.消耗期
急性期の症状により消耗したエネルギーを蓄えて、心と体を回復させるための充電期間。
- 過度の眠気
- 倦怠感・抑うつ感
- 意欲・集中力の低下
- 甘え
4.回復期
エネルギーの充電とともに健康な部分が回復し、ゆっくりと活動範囲を広げていく時期。
- 気持ちのゆとりや意欲、関心の回復
- 好きなことへの取り組み
- 活動範囲の広がり
※再発について
一度回復した後も、服薬の中断、生活上のストレス(人間関係や環境の大きな変化など)をきっかけに症状が再発することがあります。
5.慢性期
症状が持続したり、再発を繰り返すうちにエネルギーや生活能力が低下し、以下のような陰性症状が前面に現れるようになります。陽性症状が消失せず、長く続くこともあります。
- 意欲や自発性の低下
- 集中力の低下
- 感情の平板化
- 社会的ひきこもり
再発や慢性化を防ぐためには、薬物療法の継続・精神療法・リハビリテーションなどを行うとともに、生活上のストレスを減らす工夫も必要です。
4. 治療法
統合失調症の治療は、薬物療法を中心に、症状の快復や程度に応じて、精神療法やリハビリテーションを行っていきます。
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薬物療法
- まずはお薬を飲むことが大切です。急性期・慢性期を通じて治療の基本となります。
- しっかりお薬を飲み続けられるかどうかが、治療を左右します。
- ご家族にも服薬の必要性をご理解いただき、協力していただくことが欠かせません。
- 病気をコントロールし、再発を予防するためには、お薬とうまく付き合っていくことが大事です。
- そのためにも、主治医との連絡や定期的な受診は欠かせないものです。
- お薬の種類
- この病気の原因である脳の神経系の障害(ドーパミンの過剰な働き)に作用する、『抗精神病薬』とよばれるもの
- 『抗精神病薬』の副作用を抑えたり和らげるもの
- しっかり睡眠がとれるようにするもの
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精神療法
- 患者さんの状態に合わせた心理的サポートをおこないます。
- 主治医は、患者さんの悩みや心配事などの訴えにも耳を傾け、一緒に考えます。
- また、病気の特徴や治療法、取り組み方などを説明します。
- 主治医との面接をとおして、病気や自分のもつ症状への理解が深まります。
- また、不安が解消され、精神的な安定が得られるようになります。
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リハビリテーション
- 回復後も残る『生活のしづらさ』を和らげ、家庭や社会で生活していくための適応力や、自信を回復していくためのプログラムです。
- プログラムを通じて『作業への取り組みかた』、『人との付き合いかた』、『余暇の過ごし方』、『ストレスへの対処法』などを学んでいきます。
- 激しい症状が落ち着いた後、それぞれの回復のペースにあわせて行っていきます。
- リハビリの場としては作業療法、デイケア、生活技能訓練(SST)などがあります。